OIEの動物福祉規約「養殖魚の福祉」の仮訳を掲載します。残念ながら、養殖魚の福祉に関しては2009年に策定されたにもかかわらず、日本では活用されている様子はありません。
OIEは獣医師の集まりであり、多くの知見をもって規約を策定しています。そのため、出来上がっている規約の多くが、非常に明確に、具体的に福祉や技術を向上させる方法が書かれています。この養殖魚の福祉に関しても同様です。OIEは世界180カ国が批准しており、この規約は明らかに世界基準と言えるものです。しかし、日本では守られていない、知られてもいない、という状況にあるのです。
水棲動物衛生規約 第7部 養殖魚のアニマルウェルフェア
7.1.章
養殖魚の福祉の導入へ向けた序論
7.1.1条
指導原則
1)以下の事柄を配慮すること。
a)捕獲や捕獲漁業、研究、レクリエーション(例えば、観賞用や水族館)を目的とする魚類の利用は、人々の幸福に大きく貢献する
b)魚の健康と福祉との間には重要な関係がある。
c)養殖魚の福祉の改善はしばしば生産性を向上させ、その結果経済的利益につながる。
2)OIEは、輸送、屠殺、および病害抑制のための淘汰における、養殖魚(観賞魚を除く)の福祉のための勧告を作成する。これらの発展に向けて、以下の原則が適用される。
a)魚類を利用するにあたり、利用される動物の福祉を最大限に確保するための倫理的責任が求められる。
b)魚類の福祉に関する科学的評価には、科学的根拠に基づくデータと考慮すべき価値観による仮定が含まれ、これらの評価プロセスはできるだけ明示的に行われなければならない。
7.1.2.条
推奨の科学的基盤
1)養殖魚の福祉の基本的要件には、魚類の生物学的特性に適した取扱い方法と、当該魚類のニーズを満たす適切な環境が含まれる。
2)多くの魚種が養殖され、それぞれが異なる生物学的特性を持っている。個々の魚種に対応した具体的勧告を作成することは現実的ではない。したがって、OIEの勧告においては、一般的な養殖魚の福祉を扱う。
NB: 初回採用2008年
7.2.章
輸送中の養殖魚の福祉
7.2.1.条
適用範囲
この章では、養殖魚(以下、魚)の福祉への輸送の影響を最小限に抑えるための推奨事項について述べる。これらの推奨事項は、国内及び多国籍間の空路、海路または陸路による輸送に適用され、魚の福祉に関連する問題のみを考慮対象とする。
魚の輸送に関する水生動物の健康リスクを管理するための措置に関する勧告は、5.5章に含まれる。
7.2.2.条
責任
輸送中に魚を取り扱う者はすべて、魚の福祉への潜在的影響を考慮する責任を負う。
1)輸出入管轄に関する管轄当局の責任には、以下のものを含む。
a)輸送中の魚の福祉のための最低限の基準を定めること。基準には輸送前、輸送中及び輸送後における検査や輸送に関わる適切な認証、記録の保持、輸送に関わる者の意識啓発、訓練を含む。
b) 輸送会社の認証を含む、基準の実施を保証すること。
2)輸送の開始時と終了時に、魚の所有者と管理者は以下の責任を負う。
a)魚の一般的な健康状態および輸送の開始時における魚の輸送への適性および輸送中の魚の全体的な福祉を保証すること。これらの義務を第三者が請け負う場合も同様とする。
b)訓練を受けた有資格者が、怪我を避け最小限のストレスを与えるような方法による魚の積み下ろしが可能となるよう、施設内での作業を監督すること。
c)必要に応じて、輸送の開始時と終了時及び輸送中に、魚を人道的に淘汰することを可能にするための緊急時計画を策定すること。
d)魚が適した環境を与えられた状態で目的地に運ばれ、到着後もその福祉が確実に維持されていること。
3)輸送に関わる者は、養殖場所有者及び管理者と協力して、魚の健康および福祉基準に沿って輸送が行われることを確実にするための輸送計画を立てる責任を負う。当該福祉基準には下記の内容を含むものとする。
a)輸送される魚種に適し、十分に維持管理された輸送手段を使用すること。
b)魚の積み下ろしにあたっては訓練を受けた有能なスタッフを配置し、必要があれば魚を迅速かつ人道的に淘汰する態勢を確保すること。
c)緊急事態に対処し輸送中に魚が受けるストレスを最小限に抑えるための緊急時対応計画を策定すること。
d)輸送車両からの積み降ろしに適した装置を選択すること。
4)運輸管理責任者は、輸送に関する手順を全て文書化すること、及び輸送中の魚の福祉に関わる勧告の実施に責任を負う。
7.2.3.条
必要な能力
積み下ろしを含む輸送活動を監督するすべての当事者は、魚の福祉がプロセス全体を通じて維持されることを確実にするための適切な知識と理解を持つものとする。この能力は、正式な訓練および/または実践的な経験を通して取得することができる。
1)生きた魚を扱い、または輸送中に生きた魚に対する責任を負う全ての者は、7.2.2.条に定める責任に応じた能力を持つものとする。
2)管轄当局、養殖場経営者/運営会社、運送会社は、それぞれの職員他の担当者に訓練の機会を提供する責任を負う。
3)必要な訓練には、以下の魚種固有の知識の習得と実務経験を含むものとする。
a)魚の行動、生理学、病気の一般的な徴候、および福祉が不十分な状態
b)魚の健康と福祉に関する設備の操作と維持管理
c)水質と適切な水の交換手順
d)運搬、積み下ろしの間の生きた魚の取り扱い方法(当該魚種固有の側面)
e)魚の検査方法、輸送中に頻繁に生ずる水質の変化、悪天候、緊急時の管理方法
f)7.4.章の規定に適合する魚の人道的な淘汰方法
g)運送日誌と記録の保存
7.2.4.条
輸送計画
1.一般的考慮事項
適切な計画の作成は輸送中の魚の福祉に影響を与える重要な要素となる。事前の輸送準備、輸送の期間および経路は輸送の目的によって決定されるべきであり、その例として、防疫問題、食用養殖や漁業資源増強のための魚の輸送、病害抑制のための淘汰・殺処分などが挙げられる。輸送開始に先立ち輸送計画を作成するにあたっては以下の点を考慮するものとする。
a)必要な車両および輸送機器の形式
b)輸送経路(目的地までの距離、予想される天候および/または海上の状態など)
c)輸送の性質と所要時間
d) 荷降ろし地の水質に対する魚の順応の必要性の評価
e)輸送中の魚に対する配慮の必要性
f)魚の福祉に関わる緊急時の対応手順
g) 必要な防疫水準の評価(例えば、洗浄および消毒の実践、水交換のための安全な場所、輸送用水の処理)(5.5.章参照)
2.操作機器を含む輸送車両の設計と維持管理
a)魚の輸送に使用される車両および容器は、輸送される魚の種類、大きさ、重量および数に対して適切でなければならない。
b)輸送される魚の福祉に直接または間接的に影響を与える可能性のある車両の予測可能かつ回避可能な損傷を防止するため、車両および容器は機械的および構造的に良好な状態に維持されなければならない。
c)防疫上の理由で漁船のバルブを閉めることを含め、輸送状況や動物のニーズに対応するため、輸送車両(該当する場合)および容器には水と酸素供給のための適切な循環機器を備えなければならない。
d)魚の福祉の評価を確実に行うため、魚は必要に応じ輸送中の検査が容易な状態に置かれなければならない。
e)魚の福祉に関する車両備え付けの文書記録には、受け取った魚、視察情報、死亡率、処分/保管を記録した輸送記録を含まなければならない。
f)魚を扱うために使用される機器、例えば網やすくい網、吸引装置や牽引装置は、魚が受ける損傷を最小限とするよう設計、製造され、維持管理されなければならない。
3.水
a)水質(例えば、酸素、二酸化炭素、アンモニア濃度、pH、温度、塩分)は、輸送される魚種および輸送方法に適したものでなければならない。
b)輸送時間の長さに応じた、水質を監視し維持するための設備が求められる。
4.魚の輸送のための準備
a)輸送前には、輸送される魚種および成長段階を考慮し、飼料を与えることは控えねばならない。
b)輸送のストレスに対する魚の適応能力は、健康状態、以前の取り扱い、および魚の最近の輸送履歴に基づいて評価されなければならない。 一般的に、輸送に適した魚のみを積載しなければならない。病害抑制のための輸送は、第7.4章に従うものとする。
c)魚の輸送適性の不適合理由は以下の通り。
ⅰ)疾患の臨床徴候が見られること。
ⅱ)急激な呼吸や異常な遊泳などの重大な身体的傷害または異常な行動。
ⅲ)行動または生理学的状態に悪影響を与えるストレッサー(例えば、極端な温度、化学薬品)に対して
最近さらされたこと。
ⅳ)絶食期間が不十分または過剰であること。
5.魚種固有の推奨
輸送手順において輸送される魚種固有の行動や必要性を考慮しなければならない。一つの魚種で奏功した処理手順であっても、他の魚種では効果的でないか危険である可能性がある。
魚種あるいは成長段階によっては、給餌の停止または浸透圧への順応等、新しい環境に入る前に生理学的な準備が必要となり得る。
6.緊急時の計画
運送中に生じうる魚にとって重要かつ不利益な福祉的事象に対する管理手順及び各事象に対して取られるべき措置を明確に定める緊急時の計画を策定しなければならない。この計画においては各事象に対して実施すべき措置と、通信および記録保管を含む関係者すべての責任を文書化する必要がある。
7.2.5.条
文書
1)必要な文書を完成した後に、魚を積むこと。
2)委託に付随する文書(輸送記録)には下記の内容を含むものとする。
a)委託の説明(例えば、日付、時間、積載場所、魚種、積載生物量)。
b)輸送計画の説明(例えば、経路、水交換、予定時刻、到着・荷降ろしの場所、および受領者連絡先情報を含む)。
3)運送記録は、運送委託配送者及び受取人が閲覧できると同時に、要請があれば水性動物衛生局も閲覧できるものとする。前回輸送以降の輸送記録は、輸送完了後、水生動物衛生局が指定した期間保管しなければならない。
7.2.6.条
魚の積載
1)魚の負傷や不要なストレスを回避するため、下記の課題に取り組むものとする。
a)養殖池、水槽、網またはケージ内における積載前の積荷手順。
b)不適切に建設(例えば鋭利なカーブまたは突起)されたか不適切に操作(例えば不適切な大きさや数量の魚の過積載)されたネット、ポンプ、パイプ、継手などの設備。
c)水質(著しく異なる水温や他の水のパラメータで魚が輸送される可能性がある場合、魚種によっては環境に順応させなければならない)。
2)輸送車両および/または容器内の魚の密度は入手可能な科学的データに基づかねばならず、所与の魚種および状況に対する一般的な許容限度を越えてはならない。
3)魚の積載にあたり、魚の福祉が維持されることを確実とするため、魚種の行動やその他の特性に関する知識と経験を持つ管理者がこれを実施し、または監督しなければならない。
7.2.7.条
魚の輸送
1.一般的考慮事項
a)許容可能な福祉が維持されていることを確認するため、輸送中も定期的な点検が行われなければならない。
b)水質の監視、及び極端な状況回避のため必要な調整が行われていることを確認すること。
c)魚の輸送は、ストレスや損傷の原因となりうる魚の制御不能な動きを最小化する方法で実施すること。
2.病気や怪我を負った魚
a)輸送中に魚の健康を害する緊急事態が発生した場合、車両運行者は緊急時対応計画を開始しなければならない(7.2.4.条ポイント6参照)
b)輸送中に魚を淘汰することが必要な場合は、7.4.章の規定に従い人道的に行わなければならない
7.2.8.条
魚の荷降ろし
1)積載中の良好な魚の取り扱いの原則は、荷降ろしの際も同様に適用される。
2)魚は、目的地に到着後できるだけ迅速に降ろさなければならず、荷降ろしの手順が魚に有害とならないよう十分な時間をかけなければならない。魚が荷降ろしにより著しく異なる環境(温度、塩分、pHなど)に置かれる可能性がある場合、魚種によっては環境に順応させなければならない。
3)瀕死の、または重傷を負った魚は、7.4章の規定に従って撤去し、人道的に淘汰しなければならない。
7.2.9.条
輸送後の作業
1)魚を受領した担当者は、輸送後にそれらを注意深く観察し、適切な記録を作成しなければならない。
2)異常な臨床徴候を示す魚は、第7.4章の規定に従い人道的に淘汰されるか、獣医師または治療を勧める他の有資格者によって隔離され検査を受けるものとする。
3)輸送に伴って発生した重大な問題については、再発を防ぐための検証を行う。
NB:初回採用2009年/ 直近更新2012年
7.3章
人間の消費用に養殖された魚の気絶および屠殺に関する福祉の側面
第7.3.1条
適用範囲
本章で述べる推奨事項は、人間の消費用に養殖された魚類を気絶させること、および屠殺することに適用される。
本章で述べる推奨事項が焦点を当てる問題は、人間の消費用に養殖された魚を気絶させたり屠殺する際(輸送中および気絶させる直前の生け簀の中も含む)の福祉を確実にする必要性である。
本章が記述することは、人間の消費目的で魚を気絶させたり屠殺する際に魚の福祉を確実にするために適用されるべき一般原則、および病害抑制目的で淘汰される養殖魚にも適用されるべき一般原則である。病害抑制目的の緊急淘汰のために使用できる他の手段については、7.4章で取り扱う。
一般原則として、養殖魚は屠殺される前に気絶させられるべきである。またその気絶手段は、確実に即効性があり、かつ意識喪失から確実に回復しないようにすべきである。もし気絶から回復し得るような場合には、意識が戻る前に魚を致死させるべきである。
第7.3.2条
従業員について
魚を取り扱ったり、気絶させたり、屠殺すことに従事する者は、魚の福祉において重要な役割を持つ。気絶させたり屠殺するために魚を取り扱う従業員は経験を積んでおり、魚の取り扱いに長けているべきであり、魚の行動パターン、および自分の仕事を遂行するにあたって必須となる基本原則を理解しているべきである。気絶および屠殺手段のうちのいくつかは、従業員にとっての危険要因となる。従って、訓練によって使用する全ての手段から予期される職業上の健康および安全の影響への対策を講じるべきである。
第7.3.3条
輸送について
もし気絶・屠殺する前に魚を輸送すべき場合には、OIE による輸送中の養殖魚のウェルフェアに関する勧告(7.2章を参照)に従って輸送を実施すべきである。
第7.3.4条
生け簀設備のデザインについて
1) 生け簀設備は、ある特定の魚類一種、あるいはいくつかの魚類種のグループを保留するための専用の設備として、デザイン・構築されるべきである。
2) 生け簀設備は、一定数の魚を処分するまでの一定期間、魚の福祉を損なわずに保留することが可能なサイズであるべきである。
3) 設備の運用は、魚の怪我とストレスを最小限にしながら実施すべきである。
4) 以下に述べる推奨事項は、本条項の実現の手助けになるかもしれない。
a) ネットと水槽は、魚の体の怪我を最小限に抑えるように設計され、またメンテナンスされるべきである。
b) 水質は、保留している魚種、および収容密度に適した状態であるべきである。
c) 魚を移動させるための機材(送水ポンプや送水パイプも含む)は、怪我を最小限に抑えるように設計され、またメンテナンスされるべきである。
第7.3.5条
積み下ろし、移動、積み上げ
1) 魚の積み下ろし、移動、積み上げは、魚の怪我とストレスを最小限に抑えるような状況のもとで行われるべきである。
2) 次に挙げる点を考慮すべきである。
a) 魚が到着したら、積み下ろす前に水質(例えば水温、酸素と二酸化炭素濃度、pHと塩度など)の査定を行うべきであり、もし必要であれば、是正措置を取るべきである。
b) 可能な場合には、怪我をした魚や瀕死の魚は全て分離させ、苦痛を与えずに致死させるべきである。
c) ストレスとなる状況の発生を避けるため、魚が一ヶ所に詰め込まれる期間は可能な限り短く、頻度を少なくすべきである。
d) 輸送中に魚を手で取り扱うことは最小限に抑えるべきであり、望ましくは、魚を手で持ち上げて水の外に出すべきではない。もし魚を水から離す必要がある場合には、この期間を可能な限り短くすべきである。
e) 実現可能な場合、および適切な場合には、ストレスとなる人の手による取り扱いを避けるため、魚が人の手を介さず、気絶させる装置の中に直接泳いで入っていくことを可能にすべきである。
f) 魚を取り扱うための機材、例えば網、すくい網、送水ポンプ、絞り網などは魚の体の傷を最小限に抑えるように設計、構築、操作されるべきである(例えば、送水ポンプの高さ、水圧、速度は考慮すべき重要な要因である)。
g) 魚を屠殺する前に、必要な場合(例えば、内臓の中をきれいにするためや、望ましくない感覚刺激反応を減らすためなど)以上に魚を断食(餌を与えないこと)させるべきではない。
h) 魚の積み下ろし、輸送、積み上げ中の緊急事態に対応し、ストレスを最小限に抑えるための緊急事態計画を用意すべきである。
第7.3.6条
気絶手段および致死手段
1. 全般的な考察
a) 可能な場合には、魚類種特有の情報を考慮に入れて手段を選択すべきである。
b) 魚を取り扱う機材、気絶させる機材、屠殺機材は全て適切にメンテナンス・操作されるべきである。また、定期的にテストを行い、十分に機能することを確かめるべきである。
c) 意識の喪失によって効果的に気絶させていることを確認すべきである。
d) 補助的な気絶手段が必要である。気絶させるのに失敗した魚や、屠殺の前に意識が回復してしまった魚は全て、可能な限り早急に再度気絶させるべきである。
e) 魚が意識回復したり、部分的に意識を取り戻してしまうほどに致死させるのが遅れそうな場合には、気絶させるべきではない。
f) 意識の喪失を認識するのは難しいが、正しく気絶させられたこと示す形跡としては以下のものがある。 i) 体と呼吸器の動きの停止(えら活動の停止)、ii) 視覚的反応(VER)の停止、iii) 前庭眼反射(VOR、目玉の回転)の停止
2.力学的な気絶手段および屠殺手段
a) 打撃による気絶は、十分な強度の一打を、頭の脳の真上、あるいは脳の極めて近隣に加え、脳にダメージを与えることで達成できる。力学的な気絶は手動で実施してもよいし、特別に開発した機材を用いてもよい。
b) 突き刺しまたはコアリングは、釘や鉄芯を脳に刺し込むことで脳に物理的なダメージを与える方法を用いた回復不能な気絶および屠殺手段である。
c) 弾丸を発砲する方法は、大型の魚(マグロなど)を屠殺する際に使用してもよい。魚をネットの中に押し込んでから、水の外から頭を撃つ方法を用いてもよいし、あるいは個々の魚を水の中から頭を撃って屠殺する方法(一般的にルパラと呼ばれる方法)を用いてもよい。
d) 力学的な気絶手段による無意識状態は、正しく実施されていれば一般的には回復不能である。意識の喪失が一時的であるような場合には、魚の意識が戻る前に屠殺するべきである。
3.電気的な気絶手段および屠殺手段
a) 電気的な気絶手段は、魚を直ちに意識喪失させ、無感覚状態にするのに十分な強さと期間、および適切な周波数の電流の利用を必要とする。真水、および塩水の伝導率は様々であるため、魚を気絶させる現場で、確実に気絶させられるように電流の各パラメータ値を設定することが必要不可欠である。
b) 電気的に気絶させる器具は、特定の魚類種とその種が住む環境に合わせて構築・利用されるべきである。
c) 電気的な気絶手段による無意識状態は回復する可能性もある。そのような場合には、魚の意識が回復する前に屠殺するべきである。
d) 魚を閉じ込める場合は水面下で行うべきである。気絶用の水槽、または気絶用区域の中では、均一に電流が分布するようにすべきである。
e) 水の外で通電して気絶させるシステムを使う場合は、迅速かつ効率的な気絶を実施できるように、魚が頭から先に装置の中に入るようにすべきである。
4.その他の致死手段
以下に挙げる方法が、魚を屠殺するための手段として知られている:生け簀内での氷による冷却、生け簀内でのドライアイスによる冷却、生け簀内での氷とドライアイスの両方での冷却、塩またはアンモニアに浸ける方法、水の外に出すことによる窒息、気絶させない失血死。しかしながら、これらの方法は魚の福祉が不十分になることが示されている。従って、本条の2および3で述べた手段がその魚類種に対して適切な手段として実行可能であるならば、これらの方法は用いるべきではない。
第7.3.7条
魚類用の気絶・屠殺手段、およびそれぞれの福祉に関する問題の要約した表
下記の表に記した方法を組み合わせて使ってもよい
気絶・屠殺手段 | 手段名 | 魚の福祉上の重要な懸念・要求 | 利点 | 欠点 |
力学的 | 打撃による気絶 |
打撃は十分な力で、かつ脳の真上、あるいは近い位置に与えることで、直ちに無意識にさせるべきである。魚を素早く水の外に取り出し、拘束し、こん棒あるいは自動化した打撃気絶機を使って素早く一打を与えるべきである。気絶の効き目を確かめ、必要であれば再度気絶させるべきである。気絶手段、屠殺手段のどちらにも成り得る。
|
直ちに意識を失うこと。中型~大型の魚に適している。 | 手で操作する器具の場合、制御できない魚の動きが妨げとなる可能性がある。打撃力が弱すぎることが原因で気絶させるのに失敗する可能性がある。怪我をする可能性がある。人力での打撃による気絶は、限られた数、かつ同じサイズの魚を屠殺する場合にのみ実行可能である。 |
突き刺し、コアリング | 釘は魚の頭骨の上から、脳を貫通する場所を狙うべきであり、また突き刺しの衝撃により直ちに意識喪失が生じるべきである。魚を素早く水の外に取り出し、拘束し、直ちに釘を脳に突き刺す。気絶手段、もしくは屠殺手段として用いる。 | 直ちに意識を失うこと。中型~大型の魚に適している。小型のマグロの場合、水中での突き刺しにより、魚が空気にさらされることを避けられる。マグロが持つ松果体窓は、この魚類種の突き刺しを容易にする。 | ずさんに適用すると怪我を招く可能性がある。魚が興奮していると適用が困難になる。限られた数の魚を屠殺する場合にのみ実行可能である。 | |
弾丸 |
注意深く脳を狙って発砲すべきである。魚を正しい位置に配置し、射程距離はできるだけ短くすべきである。気絶手段、もしくは屠殺手段として用いる。
|
直ちに意識を失うこと。大型の魚(例えば大型マグロなど)に適している。 | 射的距離と銃の口径を調整する必要がある。魚を過剰に詰め込みすぎることや、銃の騒音がストレス反応を引き起こす可能性がある。体液の放出による作業現場の汚染により、バイオセキュリティ上のリスクが発生するかもしれない。作業員にとって危険となり得る。 | |
電気的 | 電気的な気絶 | 直ちに意識喪失が生じるように、十分な強さ、周波数、長さの電流を加える必要がある。気絶手段、屠殺手段のどちらにも成り得る。機材は正しく設計され、またメンテナンスされるべきである。 | 直ちに意識を失うこと。小型~中型の魚に適している。多量の魚に適しており、また魚を水中から取り出す必要がない。 | 全種類の魚類向けの規格化が困難であること。魚類種がいくつかある場合、最適なパラメータ値が不明である。作業員にとって危険となり得る。 |
水の外での通電気絶 | 電気が脳に作用するように、魚の頭から先にシステム内に入るようにすべきである。直ちに意識喪失が生じるように、十分な強さ、周波数、長さの電流を加える必要がある。機材は正しく設計され、またメンテナンスされるべきである。 | 気絶させるのを目で見ながらコントロールできること。個々の魚の再気絶ができること。 | 魚の配置場所を誤ると、不十分な気絶という結果を招く。魚類種がいくつかある合、最適なパラメータ値が不明である。魚のサイズがばらばらの場合には適した方法ではない。 |
[注: 小型、中型、大型の魚、という用語は、対象の魚類種ごとに相対的に解釈すべきである]
第7.3.8条
魚の群れに適した気絶・致死手段の例
次に挙げる手段が、下記の魚の群れに対して苦痛を与えない屠殺を可能にする
1) 打撃による気絶: 鯉、サケ
2) 突き刺し、コアリング: マグロ
3) 弾丸: マグロ
4) 電気的気絶: 鯉、ウナギ、サケ
NB: 初回採用2010年/ 直近更新2012年
7.4 章
病害抑制目的で養殖魚を淘汰することについて
第7.4.1条
適用範囲
本章で述べる推奨事項は、病害抑制目的で養殖魚を淘汰する決断が下された、という前提に基づくものであり、その養殖魚が死亡するまでの間の福祉を確実にする必要性に取り組むものである。
養殖を営む過程で、個々の養殖魚を間引くこと(例えば、選り分け、格付け、あるいは表立っては出てこない病的状態のため)は本章の範囲外である。
「水生動物衛生規約」内の次に挙げる各章に書かれているガイダンスも考慮にいれるべきである:4.5章 緊急事態計画、4.7章 水棲動物の排泄物の取り扱い、廃棄、および処理、5.5章 水棲動物の輸送に関連する健康リスクの制御、7.2章 輸送中の養殖魚の福祉、7.3章 人間の消費用に養殖された魚の気絶、および屠殺に関する福祉の側面
第7.4.2条
一般原則
1) 魚の福祉への配慮は、病害抑制のための緊急事態計画の中で取り組むべきである(4.5章を参照)。
2)淘汰手段の選定には、魚の福祉、バイオセキュリティに関する要求事項、さらに従業員の安全性を考慮すべきである。
3) 病害抑制目的で魚を淘汰する場合、利用する手段は、迅速な死、あるいは迅速かつ死亡するまで持続する意識喪失を招くものであるべきである。もし、意識喪失が迅速でない場合には、意識喪失状態への誘導は、不快感を伴わないもの、あるいは可能な限り不快感の少ないものであるべきであり、不要な痛み、苦痛、苦しみが魚に生じないようにすべきである。
4) 7.3章で述べた方法は、病害抑制目的に用いてもよい。
5)病害抑制目的に推奨するいくつかの手段(例えば、麻酔剤の過剰投与、粉砕など)は、魚を人間の消費には不適切な状態にする可能性がある。このことは、緊急事態計画の中に明記すべきである。
6) 状況に応じて、魚の緊急淘汰は、現場で実行してもよいし、あるいは認可された致死設備に魚を移したあとで実行してもよい。
第7.4.3条
病気に感染した施設および認可された致死設備の運用ガイドライン
1) 魚を淘汰する際には、以下が適用されるべきである。
a) 運用上の手続きは、施設特有の状況に合わせて適応されるべきであり、また魚の福祉と該当する病気特有のバイオセキュリティに対して対策を講じるべきである。
b) 魚の淘汰の実行は、遅れることなく、適切な資格を持つ従業員によって、バイオセキュリティに関する取り決めに一層の熟慮を払った上で実行すべきである。
c) 魚を手で取り扱うことは、ストレスを避けるため、かつ病気の拡散を防ぐために、最小限に抑えるべきである。実行する場合には、後述する条項に従って行うべきである。
d) 魚の淘汰手段は、死亡するまで魚を意識喪失させるような手段、あるいは可能な限り最短の時間で致死させる手段を用いるべきであり、無用な痛みや苦しみを生じさせるべきではない。
e) 各運用手続きは、継続的に監査を行い、それらがバイオセキュリティと魚の福祉に関して常に効果的であることを確認すべきである。
f) それぞれの施設にて、標準業務手順書(SOPs)を用意し、それに従うべきである。
2)病害抑制目的で、感染した施設内で魚を淘汰する手順は施設運用者が発達させ、管轄官庁によって承認されるべきである。その際には、魚の福祉、バイオセキュリティに関する要求事項、および従業員の安全性を考慮に入れ、さらに以下の点への配慮を含むべきである。
a) 魚を手で取り扱うこと、および魚の移動
b)淘汰する魚の種類、数、年齢、大きさ
c) 魚の淘汰手段
d) 魚を淘汰するのに適した麻酔性物質の利用の可能性
e) 魚を淘汰するのに必要な機材
f) 全ての法律上の問題点(例えば、魚を致死させるのに適した麻酔性物質の利用など)
g) 近隣にある他の養殖漁業施設
h) 4.7章に従った、淘汰した魚の処分
第7.4.4条
運営チームに必要な能力と責任範囲
運営チームは魚の淘汰に関する計画立案、実行、および報告を行う責任がある。
1.チームのリーダー
a) 必要な能力
i) 魚の福祉を査定する能力。特に魚の淘汰を実践するために選定され、利用される淘汰方法の効果に関して評価し、全ての欠点を見つけ出し、正す能力。
ii) バイオセキュリティに関するリスクの査定、および病気の拡散を防ぐために適用される緩和措置の評価を行う能力
iii) 施設内での全ての活動を管理し、時間通りに結果を出す技量
iv) 魚養殖業者、チームのメンバー、一般大衆への心理的影響への配慮
v) 効率的なコミュニケーション能力
b) 責任範囲
i) 最も適切な淘汰方法を決定し、不要な痛みと苦しみを伴わず、また一方でバイオセキュリティへの考慮とバランスを取りながら、魚の淘汰を確実に行うこと。
ii) 病気に感染した施設での運営全般を計画すること。
iii) 魚の福祉、従業員の安全性、およびバイオセキュリティに関する必要条件の決定と取り組み。
iv) 国が定める病害抑制のための緊急事態計画に従って、適切な魚の淘汰を容易にするためのチームを組織し、指示を与え、管理すること。
v) 必要なロジスティックス(物流総合管理)の決定。
vi) 魚の福祉、従業員の安全、バイオセキュリティの必要条件が確実に満たされるように運営を監視すること。
vii) 進捗状況と問題点を上層部へ報告すること。
viii) 運営において用いられている淘汰方法と、その方法の魚の福祉面での効果、そしてそれにより生じるバイオセキュリティの結果を要約し、書面による報告書を提出すること。報告書は、管轄官庁が定める一定期間の間、保管され、アクセス可能な状態にすべきである。
ix) 現場の設備を、魚を大量に淘汰するのに適切かという面から再評価すること。
2.現場の従業員の魚の致死に対する責任範囲
a) 必要な能力
i) 魚の行動や住環境など、魚に関する特定の知識。
ii) 魚の取り扱い、気絶方法、淘汰方法について訓練を受け、能力を有すること。
iii) 機材の操作とメンテナンスについて訓練を受け、能力を有すること。
b) 責任範囲
i) 効果的な気絶および淘汰技術によって魚を致死させることを確実に行うこと。
ii) 必要に応じて、チームのリーダーを補助すること。
iii) 必要な場合には、一時的な魚の取り扱い設備を設計し組み立てること。
第7.4.5条
麻酔性物質の過剰投与による淘汰
本条項では麻酔性物質の過剰投与を用いる淘汰手段について述べる。
1.麻酔性物質の利用
a) 魚の淘汰のために用いる麻酔性物質は、単に麻酔性効果を持っているだけでなく、効果的に魚を致死させる物質であるべきである。
b) 麻酔性物質を使う場合には、操作を実行する従業員は、魚に投与する水に対して、薬の溶液が正しい濃度になっていること、および魚の種類、およびまだ生きている魚にとって適切な水質の水が使われていることを確かめるべきである。
c) 魚は、死亡するまで麻酔性物質溶液の中に入れておくべきである。
2.利点
a) 大量の魚を一度にまとめて致死させられる可能性がある。
b) 魚が死亡するまで、魚を手で取り扱う必要がない。
c) 麻酔性物質の利用は、侵襲的な手法ではないため、バイオセキュリティのリスクが減る。
3.欠点
a) この方法は魚を死亡させるのに失敗するかもしれない。例えば、長引いた利用のために麻酔性物質が薄まってしま場合などである。そのような状況の場合、麻酔状態にある魚を意識が回復する前に致死させるべきである。
b) いくつかの麻酔性物質は、一時的に魚の嫌悪反応を引き起こすかもしれない。
c) 溶液の調合と準備、および溶液の廃棄、および/または麻酔性物質を投与された魚の死骸の廃棄には、注意が必要不可欠である。
第7.4.6条
力学的な淘汰手段
1.断頭
a) 鋭利な器具、例えばギロチンやナイフ、を使った断頭を用いてもよいが、事前に気絶させておくか、適切な場合には、麻酔をかけておくべきである。
b) 必要な機材を、正しく機能する状態に保つべきである。
c) 血液、体液、およびその他の有機物質による作業現場の汚染により、バイオセキュリティの危険が引き起こされるかもしれない。これがこの方法の大きな欠点である。
2.粉砕
a) 回転する刃や突起物のついた力学的な器具による粉砕は、孵化したばかりの魚、胚を有する魚卵、および受精卵、未受精卵に、即時の断片化と死をもたらす。この方法は、そういった対象に適している。大量の魚卵/大量の孵化したばかりの稚魚を素早く淘汰することが可能である。
b) 粉砕には、専用の機材が必要であり、機材を正しく機能する状態に保つべきである。粉砕する物質を機材に入れる速度は、切断刃が完全に機能する速度で回転し続けるくらいであるべきであり、また刃の回転が機材の製造者が定義した臨界速度を下回らないようにすべきである。
c) 血液、体液、およびその他の有機物質による作業現場の汚染により、バイオセキュリティの危険が引き起こされるかもしれない。これがこの方式の大きな欠点である。
NB: 初回採用2012年/ 直近更新2013年
(翻訳以上)
翻訳:アニマルライツセンター翻訳(Ikuro Oshima, Tora Horie, Yuri Suzuki)
■OIE水性動物衛生規約 第7章「養殖魚の福祉」全文(英語)
http://www.oie.int/index.php?id=171&L=0&htmfile=titre_1.7.htm
■翻訳はボランティアの協力でアニマルライツセンターが独自に行ったもので、国内の正式なものではありません。