日本では鶏の屠畜の際に電気ショックで気絶させるのが主流だが、世界は空気コントロールによる麻酔に移行している。
空気コントロールスタニング(controlled atmosphere stunning — CAS)とは脳への酸素欠乏をもたらす麻酔方法であり、現在主に2種類ある。
- ガススタニング
- 低大気圧スタニング(Low Atmospheric Pressure Stunning — LAPS)
電気スタニングの問題 *1*2
- 懸鳥労働者の作業環境(人間工学・健康)
- 懸鳥作業は食鳥処理場の労働者にとって一番過酷な工程:
- 鳥は暴れ、羽ばたき、引っ掻き ※労働者の怪我は日常、力も必要である
- 排便、嘔吐、粉塵と羽根が舞い上がる
- 肉質低下
- 暴れによる傷つき(傷口からの汚染)、うっ血、脱骨
- 電流による肉の損傷
- 動物福祉
- 鳥の大きさ・動きなどにより失敗がある:
- 失敗する割合:2~3%(USA)、5%(ブラジル)*3
空気コントロールスタニング(CAS)の利点 *4
- 輸送箱から取り出さず、直接スタニングできる
- 肉質向上
- 放血向上:赤さが減り、身が明るい
- 肉質検査時間短縮(人件費減少)
- 労働者維持
- ネブラスカ州MBA社:離職率75%減少
- ミシガン州のCAKを使用した食鳥処理場 :離職率が平均の4~5倍低い
- 冷蔵時間短縮
- ガススタニングの方が電気スタニングよりpHが速く下がる → 熟成時間減少
- ディーンフーズ:と鳥から骨抜きまで24時間熟成していたのが2時間に短縮→冷蔵不要
- 懸鳥場の清掃短縮・肉の洗浄短縮・廃棄される鳥の管理費用減少
- 動物福祉向上
- 意識を戻す率:Stork(Marel)社 0.003%、LINCO社 0.027% *5
レバーの変色と、その対応処置
ガススタニングをするとレバーの黒さが増すと言われているが、解決策がある。
低大気圧スタニング(LAPS)のTechnoCatch社によると、
「米国では冷水に浸けてレバーの温度を2.8Cまで冷やすことによって変色を元に戻している*6。」という。
15~30分かかるそうだ。
ガススタニング
ガススタニングの中で主流であるCASでは、二酸化炭素や窒素・アルゴンなどの不活性ガスを段階的に混入することにより徐々に意識を喪失させる。
不活性ガスの方が苦しみ無く意識を喪失させることができるが、二酸化炭素より5~9倍高価なので、主にCO2が使われている*4。
ガススタニング機器比較
ガススタニングは次の主要な会社により、ヨーロッパ・ロシア・中国・アメリカ・カナダで既に導入されている。
日本でも青森県の山和機器産業株式会社が食鳥用の炭酸ガス麻酔処理装置(GS-2)を開発した*2。
*7 | Marel | Anglia / American Autoflow | Meyn / Praxair | BAADER- LINCO | Humane Aire | 山和機器 |
市場 | 欧・ロシア・ アメリカ | 欧・カナダ・ アメリカ・ オーストラリア | 欧・中国 | スペイン | アメリカ・ カナダ | 日本 |
輸送箱→ スタナー | 箱ごと | 箱ごと | 箱ごと | 箱ごと | 箱ごと | ? |
階層a | 一階層(直線) | 複階層 | 一階層 | ピット式 | 一階層 | 一階層 |
ガスb | 酸素加入 | CO2のみ | CO2のみ | CO2のみ | CO2のみ | CO2のみ |
1段階目 | 20~23% CO2 + 25% O2 | 25% CO2 | 18% CO2 | 5% CO2 | 調整柔軟 | ? |
2段階目 | 30% CO2 + 20% O2 | 30% CO2 | 28% CO2 | ↓ | ||
3段階目 | 40% CO2 + 15% O2 | 35~40% CO2 | 34% CO2 | ↓ | ||
4段階目 | 60% CO2 | 50% CO2 | 38% CO2 | ↓ | ||
5段階目 | 70% CO2 | >60% CO2 | 62% CO2 | 70% CO2 | ||
所要時間 | 5分 | 5~7分 | 6分 | >6分 | ||
日本導入 | 日本語パンフ あり | 販売興味あり | 興味なし | 導入困難 | 将来的に 検討する | 青森八戸 |
a. 1階層の方が鶏を上下に移動させなくて良いので負担が少ない。また、直線の方が負担が少ない。
b. 酸素加入した方がCO2による苦しみが減り安楽*8。
CAS方式の普及
EUでは2012年の時点で既に19%の鶏、7%の採卵鶏、24%の七面鳥に空気コントロールスタニングが使われていた*9。英国では2013年の時点で71%の鳥にCASが使われていた*10.
大手の食肉会社 Tyson、Perdue、Cargill、Maple Leaf などがCASに切り替えている。
日本では徳島県の貞光食糧工業株式会社が炭酸ガス麻酔を自前の機材で行っている。現時点で私達が把握している日本唯一のガススタニング処理場である。
ストレスのかからない飼育方法に加え、炭酸ガスによる麻酔およびエアーチリングによって、処理工程においてもストレスをかけないことで、美味しい鶏肉を実現しました。
貞光食糧工業株式会社
CASに転換した効果
英国のBrandons社は Anglia Autoflow のシステムに転換した結果、懸鳥従業員費用50%削減、ライン速度20%増加、収率は最大1.5%上昇した*4。
懸鳥速度は米国の平均の1人当たり毎分約5.125羽と比べ、ガススタニング後に懸鳥すたイタリアのアマドリ社は毎分約7.66羽と50%早くなった — Watt Poultry USA、2006年2月 *4。
英国のFlixton工場では1日あたり110,000羽から約140,000羽処理できるようになった — Watt Poultry USA、2006年2月 *4。
オランダのPingo食鳥処理工場では熟成に12~24時間かけていたのが、3時間で柔らかい製品を生産できるようになった*4。
BAADER-LINCO社では、損傷のない肉の割合が電気スタニングだと37.5%であったのに比べ、CASだと80%になった*11。
Meyn社によると、電気水槽ではA級の肉質が54%であったのと比べて、Meyn社の多段階式CO2スタナーでは82%になった*12。
費用と費用回収
現在最安なのはPraxair社の「⅓トラック」 であろう。
初期費用は約1千万円で、週末2回程度で設置できるという*4。
現在のところPraxair社は日本では運営していない。
トラック式ではない設備だと、英国の Anglia Autoflow社の最安のものが約2000万円(毎時4800羽)*6。
姉妹会社の American Autoflow社の1時間8000羽処理できる施設の初期費用は約1億6千万円*4。
効率の向上や人件費削減などにより利益が例えば1羽あたり3円(~1%)だけ上がるとしても、1日12時間で10万羽処理するとすると、利益が1年で最低+1億円上がる計算となる*4。
すなわち、1年半ほどで元が取れ、それ以降は毎年1億円余計に利益が入ることになる。
Anglia Autoflow 社によると、CO2の運営費用は1羽当たり0.1円*4である。
低大気圧スタニング(LAPS)
もう一つの麻酔方法であるLAPSでは、特別なガスは使わず、ただ段々と空気を抜いていくことにより酸欠をもたらす*13。
CO2単体より福祉的であり、不活性ガス使用の場合と似ている*4。
気圧を19.4kPa(0.19気圧)以下まで下げて2分間保つと、99.99%の鳥が意識を失い死亡するという研究結果がある*14。
EFSA(欧州食品安全機関)により2017に承認されている*15。
特別なガスが不要なので、安全で運営費も低い。
LAPSのシステムはアメリカのTechnoCatch社がイタリアのCatarruzzi社と手を組んで開発している。
時速2万羽処理できる施設は約2億円くらいだそうだ。*6
これら鶏や七面鳥のガススタニングは欧米で多く取り入れられ、また移行に加速がかかっている。動物福祉、人権、労働安全、離職率、コスト、肉質どれをとっても利点があるように見える。国内8億の鶏が毎年食鳥処理されているが、動物福祉が考えられているとは言えない状況にある。トレーニングなどで意識を上げることも重要であるが、これらの機材を入れ、日本人が不得意な動物取扱いの機会を減らし、様々なメリットを享受してはどうか。
*1 2013年11月Cobb社処理場プレゼン: スタニングの比較と活用
*2 山和機器産業株式会社
*3 Barbosa, RL et al. (2016). Efficiency of Electrical Stunning by Electronarcosis: Current Situation and Perspective of Improvement in a Medium-Size Processing Plant. Brazilian Journal of Poultry Science, 18(2), 331-336.
*4 PETA. 2007. Controlled-atmosphere killing vs. electric immobilization:A comparative analysis of poultry slaughter systems from animalwelfare, worker safety, and economic perspectives.
*5 Holleben, K & Wenzlawowicz, M & Eser, E. (2012). Licensing poultry CO2 gas-stunning systems with regard to animal welfare: Investigations under practical conditions. Animal Welfare. 21.
*6 TechnoCatch社との通信、2019年12月
*7 Controlled Atmosphere Systems for Broiler Chickens, Compassion in Food Business, April 2018.
*8 Gerritzen MA et al (2000). Behavioral responses of broilers to different gaseous atmospheres. Poultry Science 79(6): 928-933.
*9 European Commission (2013) Report from the Commission to the European Parliament and the Council on the various stunning methods for poultry.
*10 Food Standards Agency (2013) Results of the 2013 animal welfare survey in Great Britain.
*11 BAADER Food Processing Machinery
*12 Meyn Multistage CO2 stunning system. Revision date: 25-04-2018
*13 2013年11月Cobb社処理場プレゼン: 新しいスタニング技術 p.8-19
*14 Purswell, Joseph & Branton, S. (2007). Identifying Process Variables for a Low Atmospheric Pressure Stunning-Killing System. The Journal of Applied Poultry Research. 16.
*15 EFSA 2017 AHAW Panel (EFSA Panel on Animal Health and Welfare). Scientific Opinion on the low atmospheric pressure system for stunning broiler chickens. EFSA Journal 2017;15(12):5056, 86 pp.